乳がんの教科書

手術法の変遷

長い間、乳がんの手術といえば乳房を切除することでした。
簡単に言ってしまえば、
病巣も含めて悪い部分をがっさりと取ってしまえば、再発を抑えられる
という考え方に基づいた手術が行われていたのです。

 

ところが1990年代に入ると、乳房温存療法がそれにとって代わることに。
これは、乳がん手術の根底にある考え方が、
「とにかく、命が第一」という考え方から
「命が助かるだけではダメ。女性にとっては胸そのものが大事」
という考え方に変わってきたからです。

 

つまり、美容を含めた術後の「QOL(生活の質)」を重視した治療法が
台頭してきたことを意味しています。

乳房温存手術は本当に大丈夫なの?

乳がんになっても、乳房は残したい。
…そんな女性の思いに答える形で発展してきた乳房温存手術。

 

でも、乳房を残したままにしておいて本当に大丈夫なのでしょうか?
術後のQOL(生活の質)を重視するのは良いですが、
それが元で再発しては元も子もありませんよね。

 

もちろん、その点についてはしっかりと臨床試験を行い、
その結果に基づいて治療への変換がなされています。

 

決定的だったのは、1980年代にヨーロッパ各国で発表された試験結果。
これは、
「乳房部分切除術」
「乳房部分切除術+放射線照射」
「乳房全摘手術」
の3群を比較したもので、
3群ともに生存率に差はなかったことが分かったのです。

 

これはつまり、乳房を全部切ろうが、温存しようが、
のちの生存率は変わらないということ。

 

これがきっかけとなり、乳房温存療法が確立されていったわけです。

 

2000年代に入ると、乳房温存療法は、乳がん症例全てのうちの
約半数に行われるほど広く用いられるようになったのです。
これほどまでに乳房温存療法が増えたのは、
次のような要因があると考えられます。

 

・がんが小さい範囲で見つかるようになった
・術前化学療法が増えた
(術前に化学療法を行うことで、
病巣を小さくしてから手術ができるようになったため。
その分、摘出部を最小限に留めることが可能になったのです)

 

 

※乳房温存手術と放射線治療を含めた治療法を「乳房温存療法」といいます。
この2つをセットで行うのが一般的なようです。

乳房温存手術の種類

乳房温存手術の術式には乳房扇状部分切除術と、
乳房円状部分切除術の2つがあります。

 

 

●乳房扇状部分切除術 
がんを含む乳房を、乳頭を扇の“要”として扇状に切除する手術法です。
乳房の部分切除の中ではもっとも広範囲に切り取る方法で、
乳房の変形が大きくなることは否めません。
ただし、がんを取り残す可能性は少なくなります。

 

 

●乳房円状部分切除術
がんを中心に1〜2cm、正常乳腺をつけて切除する方法です。
切除範囲が狭いため、乳房の変形を最小限に留められるという
メリットがあります。
しかし、その反面、がんを取り残す可能性は高くなります。

 

 

…以上、扇状・円状どちらの場合でも、
切って欠けてしまった部分については、
周囲の乳腺や脂肪を使って形を整えます。

 

また、術後に放射線治療を行うことによって、
取り残した可能性のあるがん細胞を死滅させるのが一般的です。
そのため、次の方は乳房温存治療が受けられないことになります。

 

・重い膠原病の人 
・同側胸部に放射線照射による障害がある人
・照射を希望しない人